コーチングを部下の育成や面談に活かしたいと考えている人は多いかと思います。
職場での立場が上になるにつれて部下や後輩の育成にも関わっていくことになりますが、人を育てるというのはなかなか思ったようにはいかないものです。
そこで大きな成果を発揮できるのがコーチングです。
しかし、「どうやらコーチングをすればいい」と単純に考えてしまいテクニックばかりを追求しても効果を出すことは難しくなります。
今回はコーチングをどのように部下育成や面談で活かせばいいか、そして絶対に知っておくべき注意点について言及していきます。
この記事の目次
1.育成や面談で活かすためのコーチングの方法
1-1.コーチングの根本は対等なコミュニケーションを行うこと
部下を育成していくうえでどうしても「指導をする」という傾向が強くなり、経年者の立場からアドバイスしがちです。
もしコーチングにより部下育成しようと考えているのであれば、この「指導をする」という立ち位置や接し方ではまったく効果がありません。
コーチングの本質は「相手の本音を引き出し」「問題に気づかせ」「自己解決の方法を考える」ことで、相手が自発的に目標に近づいていくよう支援します。(自発的に、というのがポイントです)
そのため、先輩風を吹かせるわけでも、変にへりくだって下から接するのではなく、「お互いに自分らしさを認め合える」対等な立場で向き合いコミュニケーションを行うということが大切です。
どうしても地位や肩書き、経験やスキルといった要素を元にコミュニケーションを取ってしまいがちですが、こうしたことはコーチングの際にはすべて忘れてしまわなければなりません。
コーチングはコミュニケーションによって良好な人間関係を構築することができますが、上下関係を利用するコミュニケーションとは違うので、その点の理解がまず重要です。
1-2.相手の考えを受け止める傾聴を行う
コーチングの基本スタンスは「相手を認める」ということ。だからこそ、コーチングには「傾聴」が不可欠です。
コーチングには先輩としての考え方や価値観を伝える必要がまったくありません。むしろそれをすると全身で「聴く」のではなく、反論し相手をねじ伏せるための「聞く」姿勢になってしまいます。
「傾聴」という言葉はよく聞くかと思いますが、実際に正しいやり方を理解している人は多くありません。
傾聴をするときには
- 相手がどんな考え方をしているのか
- 相手が何を思っているのか
- 相手が何を目指しているのか
といったことをまずは受け止めてください。
仮にそれが誤った考え方であっても決して否定はせず、「そういう考え方なんだね」と受け止めます(受け止めはしても受け入れる必要はありません)。
そうすることで相手は否定されることを心配せず、どんどん本音で話ができるようになります。そして話をしていく中で初めて自分が抱えている課題や解決策に気づくことができるのです。
傾聴についてもっと知りたい方は良好な人間関係を構築する「傾聴力」の重要性と高めるための正しい方法の記事もあわせてご覧ください。
1-3.自分自身で考えるための拡大質問
コーチングの方法で大切になるのは傾聴だけではありません。「気づき」を与えるための質問も重要な要素です。
ここで勘違いしがちなのは、育成・面談担当者が自分の思い通りの方向に誘導するために質問を用いてしまうことでしょう。
たとえば、やりがちな間違った質問として次のようなものがあります。
・私が常日ごろから注意しろと言ってきたことは何だったっけ?
・私の指導方針に何か不満でもあるのか?
・ノルマを達成するためにももっとやらなきゃならないことはないか?
このように誘導するのではなく、「もっと深く考えるきっかけを作る」ということが大切です。
特に新人は失敗も多く、また経験が少ないことから限定的な思考に陥りがちになります。誘導したり失敗を責めるような質問ではなく、そこから成長できるような拡大質問をしていきましょう。
コーチングの考えを用いた質問としては以下のようなものがあります。
・本当に理想とするキャリアはどのようなものか?
・そのためにはどんな行動が必要なのか?
・今回の失敗を成功に繋げるために、具体的に何をすべきか?
・いつ、どこでその行動を起こすのか?
これはほんの一部ですが、質問に対して考え、言葉にすることによって、部下は内省を行います。中には今まで考えもしなかったことを質問され、様々な気づきを得る人もいるでしょう。
適切な質問をされ自分で課題に対する解決方法を考えることこそが、今後の新しい変化や新しい問題に対処する柔軟な力を育んでいくのです。
※どのような質問を投げかければいいのかについては相手に気づきを促すコーチングの質問の基本と例で詳しく解説していますので、こちらもぜひチェックしてみてください。
1-4.新しい視点を持たせる視点の変換を行う
適切な質問を行っても、どうしても自分の立場からしか物事を見ることができず、そのために問題点に気づけていなかったり、自分の長所を見失っているケースがあります。
ポジションチェンジ
まず、自分に問題があるのに相手のせいにしてしまい問題の本質に気づいていない場合、「それはお前が悪い」といっても相手は否定された気持ちになってしまい、反発し問題を受け入れることが難しくなります。
こういった場合は実際に上司やお客様の立場に立って自分を見つめるように促すことも必要です。
たとえば上の画像のような椅子を用意し、部下に自分の立場と相手の立場(上司・お客様等)に立ったときの場所に座ってもらい、その立場から自分がどう見えるかを答えてもらいます。
こうしたポジション(立場)を変えて現状を見つめ直すことを「ポジションチェンジ」といいますが、相手の立場に立つことで自分の思い込みや相手に対する思いやりの感情が生まれることがあります。
詳しいやり方はこちらのポジションチェンジの方法でも解説しています。
リフレーミング
視点の変換をするには「リフレーミング」という方法も効果的です。これは一つの事実を別の視点(フレーム)から物事を見ることをいいます
そうすると相手が短所だと思い込んでいた点が、長所の要素を持っていたことに気づくこともあります。
リフレーミングの具体例として以下のような方法があります。
→自分の意見ばかりを通そうとせず、周りを見て、じっくり相手の意見を聴けることができる
・ひとつの業務にこだわりすぎて、突発的に依頼されたタスクに対応できない場合
→信念が強い。ひとつのことをやり抜ける力を持っている
本人がネガティブな思考に囚われてしまうことで、自分自身の可能性を潰してしまうことにもつながります。
そうしたときに、このような励ましが部下に自信を与え、自己解決する心の余裕を生み出します。同時に、自分の長所を問題解決に活かす発想も出てくるのです。
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2.コーチングを行う際の注意点
2-1.大前提として信頼関係が構築されてこそ効果を発揮する
自分自身で解決策を考えるために拡大質問をしたり、視点を変えるためのポジションチェンジやリフレーミングをして励ますといったコーチングのテクニックはありますが、これらはあくまでも「信頼関係が構築されているからこそ効果を発揮する」ものという前提があります。
そもそも上司との信頼関係が築けていなければ、部下は本音で話をしようとはしないでしょう。
あなたがいくらコーチングの知識やスキルを身につけて質問をしたところで、そもそも良好な関係が構築されていないと、「下手なことを言って叱られたくない」「ネガティブな発言をしたら今後の出世に影響する」といった不安が生じ、当たり障りのない話しかしなくなります。
そうなると本当の問題点に気づくことができず、やった気になるうわべだけのコーチングで時間だけが過ぎてしまいます。
コーチングで部下を育成しようと考えたら、まずは信頼関係を構築していくことを第一に考えましょう。
コーチとクライアントの関係も同様です。だからこそコーチングは一定の期間が必要とされるのです。
信頼関係の構築についてはラポールとはコミュニケーションを行う上で最も基本かつ重要なことであるで詳しく触れています。
2-2.コーチングよりもティーチングな必要なケースがある
「部下の育成にはコーチングが絶対効果的!」というわけではありません。コーチングが適しているかどうかは時と場合によるのです。
コーチングは相手の気づきや自己解決策を引き出す方法ですが、それには相手に引き出すためのある程度の知識や経験が必要になってきます。
そのため、例えば入社間もない社員のような知識や経験に乏しい状態の相手に対しては、コーチングよりもティーチング(教えること)をまずは優先したほうが良いでしょう。
ティーチングが優先される場合は以下のようなケースがあります。
- 新人に対して会社の規則を教える
- 初めて取り組む仕事の内容や手順を教える
- 面識のない取り引き先の情報を教える
- 取り扱う商品の特徴やセールスポイントを教える
こうした知識や経験がない状態でコーチングを行っても良い答えは引き出すことはできません。
まず業務で成果を出すために覚えるべきことはティーチングで効率良く教えていくことが大切です。
知識も経験もない相手にコーチングを利用しても、時間がかかるばかりか、混乱を招く危険性もあるので注意が必要です。
2-4.自分自身がコーチングを受けることで解決する
「部下が思ったように成長しない」「部下とうまくコミュニケーションがとれていない」となると育成する側に焦りが出てきます。自分は指導者に向いていないのではないか、育成力や感化力といった面で会社から低い評価をされるのではないかと悩むこともあるでしょう。
「成果が出ないのは部下が無能なせいだ」と開き直ってしまうと、人間関係は破綻してしまいますし、コーチングができる環境ではなくなってしまいます。
はっきりとお伝えすると、部下育成で成果が出ないのは部下が悪いのではなく、ほとんどが上司の力不足です。
自分の課題は自分で解決するしかありません。しかし、自分では課題ややるべきことが見えないことも多いのも事実です。
そんなときは自分がコーチからコーチングを受けることで、問題点や解決策が見えてくることがあります。
実際に私たちのクライアントの中にも自分がコーチングを受けることで自分自身を見つめ直し、コーチングを受けることで身についたスキルを指導や面談で活かしいている人もいます。
プロのコーチがクライアントにどう接しているのかというのは、実際に受けてみることで非常に参考になります。
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コーチングはスキルだけ学んでも効果を発揮しない
伸び悩んでいる部下を成長させるうえでコーチングはとても効果的です。しかし、コーチング研修や本で学んだ知識をただやるだけでは効果は発揮しません。
まずは信頼関係がしっかりと構築されているかが大切なのです。
そうした状況で正しいコーチングを行うことで、問題点に気づかせ、解決策を自分自身で考えさせることができれば驚くほどの成長が見込まれます。
部下育成や面談でコーチングを行うためには、環境作りを大切にし、上司や先輩であるあなたが正しい方法でコーチングを行うことを意識するようにしてください。