近年では、ネガティブ思考を無理に矯正してポジティブ思考にするのではなく、まずは「セルフコンパッション」に取り組もうという傾向が強くなってきています。
セルフコンパッションという言葉を聞いたことがある人は少ないかもしれませんね。
セルフコンパッションとは、「あるがままの自分を受け入れる」ということです。
「高い評価を得るために常にポジティブであろう」「失敗しないためにも自信を持って行動しよう」といったことを考えている人も多いのではないでしょうか?
しかし、無理にポジティブになろうとするのではなく、セルフコンパッションを高めることで周囲の目を気にせず、失敗を怖れずに行動することができるようになります。
自尊心を維持するために、ネガティブな自分の部分を否定し続けることは困難です。
ネガティブな面がひとつもない人間などいないからです。
自己批判することに疲れていたり、本当の自分を大切にしたい方は、ぜひ今回の記事を読んで実践してみてください。
この記事の目次
1.セルフコンパッションとは何か?
1-1.セルフコンパッションを構成する要素
2011年に「Self-Compassion」が出版されました。著者は、テキサス大学で人間開発と文化の准教授を務めているクリスティン・ネフ博士です。
「Self-Compassion」は日本では、「自己への慈しみ」と訳されています。
セルフ(=自分に対する)コンパッション(=思いやり)は、自己への慈しみによって「あるがままの自分を受け入れる」ということになります。
ネフ博士は、セルフコンパッションを構成している要素は次の3つであるとしています。
他人に接する時のように、自分にも思いやりを持って優しい態度をとること。
■一般的な人間性
自分は周囲の人間関係の中で生きているという自覚。誰もが時には失敗するという認識。
■マインドフルネス
今の経験に対してイライラしたり、不安な気持ちに捉われて判断し行動することをせず、まず今の自分の感情や思考を受け入れ、そこに気づく態度。
この三つの要素が相互に作用することによって、セルフコンパッションの枠組みは作られています。これらは仏教の根底にある「慈悲」の精神が参考にされています。
1-2.セルフコンパッションが高いとどんなメリットがあるのか?
セルフコンパッションが高いとどのようなメリットがあるのでしょうか?
まず自他の比較によって自尊心を維持する必要がなくなります。
どういうことかというと、もし批判などされて自尊心が傷つくことがあっても自己否定をする必要がなくなります。
人は完全ではないので時にはミスを犯すこともあれば、失態を晒すこともあるでしょう。
そんなとき、「自分はダメだ…」と自分を責めることなく無条件で受け入れ励ますことができます。そうすることで失敗や挫折から立ち上がるのが早くなるのです。
テキサス大学のウイリアム・スワン教授の研究によると、
とういうことがわかりました。
つまり、自尊心が高い人はポジティブな評価に依存している傾向があり、そのために自己への認識が歪んでいるのです。
一方でセルフコンパッションが高い人は、フィードバックがネガティブであってもポジティブであっても、どちらも同じように受け入れることができます。
これは、セルフコンパッションが高くなると、他人の評価に左右されず、自分自身を慈しむことができるためです。
だからこそセルフコンパッションが高いと、幸福感が増大し、精神的な健康が促進されるのです。
1-3.セルフコンパッションが低いことによるデメリット
次にセルフコンパッションが低いことによるデメリットを見ていきます。
セルフコンパッションが低いと自分への思いやりが不足していますので、失敗やチャレンジを乗り越えられなかった自分に対し、批判的になり、けなしたり、叱りつけたりという態度になります。
さらに、自分は無価値な人間であり、周囲の人間と自分は違うと感じるようになります。
すると他者に対して嫉妬したり、孤立感を覚えてしまうのです。
いわゆる、「自分はダメな人間だ」と思ってしまうようなものですね。
結果として精神面で追い込まれることになり、うつ病などの精神的疾患を発症する可能性が高まります。
「自分に優しくする」というと自分を甘やかすことになり、向上心や成長といった面で問題が生じるように思えたり危険性を感じたりする人もいますが、自己への慈しみとは、自分を甘やかすことではなく自分と向き合うことです。
ちなみにセルフコンパッションが低く、自尊心だけが高いといった状況で自信を強く持っていても、リーダーシップやパフォーマンスといった面で効果は見られず、むしろ健康状態に悪影響を及ぼすことがわかってきています。
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2.セルフコンパッションの高め方
それでは、セルフコンパッションとはどうすれば高めることができるのでしょうか。
いずれの方法も大切な視点は、自分の思考や感情に向き合い、それを優しく受け止めつつ励ましていくことです。
コンフォートカードを持ち歩く
セルフコンパッションを高める方法のひとつに、「コンフォートカード」というものがあります。
これは、失敗した体験や自分に批判的になるような状況があれば、茶色のカードにその内容を書き、それに対する優しい言葉や励ましのメッセージをカラフルなカードに書いて持ち歩くというものです。
例えば、失敗をしてしまったときに「こういう失敗をしてしまった」と書き出し、それについて優しい言葉を書きます。
3週間ほど持ち歩くのが目安で、ネガティブな気持になった時にはそのカードを見ることで、セルフコンパッションを高めることができます。
インターべンション・ブレスレットを身につける
マインドフルネスを高めるには「インターベンション・ブレスレット」が有効です。
ブレスレットでもゴムバンドでもいいので、普段は右手に付けておきます。
そして、自己批判思考が発生した際に、このブレスレットを左手に付け替えるのです。
そうすることで自分がネガティブな感情になっているのだということに気づくことができます。
これだけの工夫でも、ネガティブな感情に捉われた思考になることを減らすことができます。
マインドフルネスができることで、自分に優しくする時間的・心的余裕が生まれ、自然とセルフコンパッションは高まっていきますので、ぜひ試してみてください。
架空の優しいキャラの創造する
自分に優しく接するためには、湧き上がってくる自己批判の内容を思いやりをもって理解し、励ます必要があります。
しかし、常にネガティブな自分の面を否定し続けてきた人にとっては、この切り替えは難しいでしょう。
そんな場合は、思い切って自分の心の中に「架空の優しいキャラを創造」してみましょう。
これはネフ博士も奨励しています。
そのキャラが、まずはあなたの感情を素直に受け止めます。
そして「なぜそのようなネガティブな感情になったのか」「なぜそのようなネガティブな行動をとったのか」を理解するのです。
そしてそんな自分を応援しつつ、ちょっとした打開案を提案してみたりします。
いつでも自分を応援してくれるキャラが、ネガティブな状況でもしっかりと自分を受け止めてくれ、それを継続していくことでセルフコンパッションは高まっていきます。
セルフコンパッションフレーズを唱える
または、常に自己への慈しみができるフレーズを用意しておくという方法もあります。
これは「セルフコンパッションフレーズ」と呼ばれるもので、セルフコンパッションを構成する三つの要素に対するフレーズです。
- 「自分への優しさ」に対するフレーズ:「私は自分に優しくできる」のように自己批判を和らげるもの
- 「一般的な人間性」に対するフレーズ:「自分の苦しみは特別ではない」のように自分の苦しみは特別ではないという認識
- 「マインドフルネス」に対するフレーズ;「今の私は心に苦しみを感じている」のように現状認識するもの
こうしたことを頭の中で唱えることで、セルフコンパッションを自然と身につけることができます。
コンフォートジェスチャー
自分を一度落ち着かせて、自分と向き合うきっかけを作る動作を決める「コンフォートジェスチャー」という方法もあります。
「胸に手を当ててゆっくりと大きく深呼吸してみる」とか「両肩をゆっくりと優しくなでてみる」などをし、自分を落ち着かせてから自分と向き合います。
こうした動作は副交感神経を活性化して、気持ちを落ち着かせることができます。そうして自分の心に余裕を生み出してから自分を受け止めます。
受け止めるためのルーティンのような感じで行ってみるとよいでしょう。
コンパッション日記をつける
日々の振り返りもセルフコンパッションを高めるのに効果的です。
この場合は、毎日のように「日記をつける」のがいいでしょう。
- どんなときにネガティブな思考になったか
- そのときどんなことを思ったか
- このときの対処法と効果について
こうしたことを日記に書いておくことで振り返りがしやすく、自分を見つけるきっかけとなります。
仮に有効な対処ができなかったとしても構いません。
今後、少しずつ対応できるようになればいいだけの話ですから、どうせ誰に見せるものでもないので包み隠さずに日記に記しておきましょう。
その時は自己批判しか考えられなかったとしても、文章化することでまったく別の解釈ができるようになるかもしれません。
これを繰り返していくことで、セルフコンパッションは高まっていきます。
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セルフコンパッションについて動画でも解説!
最後に、セルフコンパッションについて動画でも簡単に紹介しています。今すぐできることを簡単に紹介していますので気になる方はぜひチェックしてみてください。
※セルフコンパッションについて興味のある方は以下の記事も要チェックです。