「人間関係」は、ご存知の通りビジネスシーンだけでなくプライベートでもとても重要です。
「なぜ相手と信頼関係を築けないのだろうか?」と悩んでいるのであれば、それは相手との「ラポール」が形成されていないからかもしれません。
ラポールが形成されていることは、コミュニケーションの基本であり大前提です。
いくら話す力や聴く力を磨いてもラポールが築けていないと良いコミュニケーションは生まれません。
逆に、ラポールが形成されたコミュニケーションを積み重ねることで、信頼関係は築けていくのです。
今回はどうすればラポールが形成できるのか、コミュニケーションの際の工夫の仕方についてお伝えしていきます。
1.ラポールとは何か
ラポール(rapport)とは、もともとは臨床心理学の言葉です。オーストリアの精神科医フランツ・アントン・メスメルが使い始めたとされています。
ラポールは、フランス語で「橋を架ける」という意味です。
これは、セラピストとクライアント間の心理状態を表しており、ラポールが形成されているということは、セラピストとクライアントは「良好な人間関係」にあるということになります。
つまり信頼関係が築かれている状態ということです。
カウンセリングは信頼関係が築けなければ進展していきません。とはいえ、最初から信頼関係が築けているわけではありませんので、セラピストはクライアントとのコミュニケーションの中で、少しずつラポールを形成していきます。
現在ではカウンセリングだけでなく、様々な場面でラポールが重要視されてきています。信頼関係を構築することは何をするにしても大切になるからです。
例えばビジネスシーンでは、顧客との関係、取引先の担当との関係、職場の上司や部下との関係でラポールが築けているかは重要です。
そして、売り上げや営業成績、チームワークといったものに大きな影響を与えます。
プライベートでは恋人との関係、家族との関係、友人との関係に当てはまるでしょう。恋愛感情や友情を維持するためにもラポールは必要不可欠です。
話す力や聴く力は、この「ラポール」が築けていて初めて意味をなすものなのです。
もちろん、「感謝をする」「約束を守る」「努力を評価する」「懸命に取り組んでいる姿を見せる」といった行為でも相手の信頼を得ることはできますが、ラポールに関しては「自然と気が合う」「何もしなくても心が通じ合う」といった「気持ちで伝わる」といった意味合いが強いです。
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2.ラポールを形成する方法
それでは、ラポールはどのように形成していけばいいのでしょうか?
2-1.バックトラッキング
セラピストはコミュニケーションの時間の中だけで、どうやってクライアントの信頼を得ることができるのでしょうか?
そこにはコミュニケ―ションの際の工夫があります。
そのひとつが「バックトラッキング」です。バックトラッキングは相手の話しをそのまま「オウム返し」する方法になります。
例えば、会話の最中に自分の話ばかりをして、あなたの話に耳を傾けない人をどう思うでしょうか?
きっと信頼することは難しいかと思います。
「この人は自分の話ばかりで私の話を聞いてくれない。私に興味がないからだろう」と判断してしまうからです。
いくら話が上手でもこれではコミュニケーションが上手だとは言えません。
信頼を得るには、まずは「興味を持って話を聞いている」という姿勢を示すことが大切なのです。そのためのテクニックがバックトラッキングになります。
少し言葉を変えて言い直す「おうむ返し」や、要約して返したりするようなものです。
ラポールの形成のポイントは「あなたの話をしっかり聞いていますよ」、「あなたの言葉を受け止めましたよ」といったことを相手の潜在意識に訴えることです。
バックトラッキングはそれを自然に行ってくれます。
例えば、以下のようなイメージです。
あなた「そうか、課長の説教で嫌な気分になっていたのか」
注意点としては、間違っても「でも、私は嫌な気持ちになるのは間違いだと思うよ」とか、「確かに嫌な気持になるかもしれないが、それはお前のことを思っての話だから前向きに受け止めた方がいいぞ」といったアドバイスをしてはいけません。
受け止めてもらえたという安心感ではなく、否定されたという反発感が強くなるためにラポールは形成できなくなります。
2-2.ミラーリング
人は共通点を持った相手に親しみを感じ、心を開きやすい性質があります。これを心理学では「類似性」と呼びます。
例えば、初対面の人と趣味や出身地が同じだと急に親近感が湧いたという経験がある人は多いのではないでしょうか?
こうした類似性を誘発し、自分と似ていると感じさせることでラポールを形成していくこともできるのです。
類似性を誘発する方法のひとつに「ミラーリング」があります。
これは聞き手が話し手を映し出す鏡のように、「話し手の仕草や姿勢をそっくり真似る」ことをいいます。
長年連れ添った夫婦がとてもよく似てくるのも、無意識でミラーリングを行って良好な関係を築けていると考えられるでしょう。
ミラーリングのコツは、手が一番目につきやすい箇所である頭の位置やあごの位置を相手と揃えることです。そして口角や目の開き方を真似します。
相手が腕を組んで話をしているのであれば、同じように腕を組んで話を聞きますし、足を開いているのであれば、足を開いて話を聞くのです。
ただしミラーリングは相手の潜在意識に訴える手法ですので、真似していることがバレてしまうと意味がありません。
ミラーリングをして信用を得ようとしていると思われると、ラポールを形成するどころか不信感だけが募ることになりますので、あくまで自然に行うようにしましょう。
2-3.ペーシング
類似性を誘発する方法はミラーリングだけではなく、「ペーシング」という手法もあります。
これは相手の話しを真似るわけでも相手の仕草を真似るわけでもなく、「話し方」を真似ます。「話すリズムを合わせる」というイメージです。
例えば、相手が早口で話をするのであれば聞き手も早口で話をします。相手がゆっくりとした感じで話をするのであれば、聞き手もゆっくりとした感じで話をするのです。
ミラーリングよりもはっきりと類似性を感じやすいので効果的なのですが、ミラーリングよりも難度は上がります。
基本的に初対面の相手に対してペーシングを行うのは厳しいでしょう。
相手の話し方もリズムもまったくわからないからです。ミラーリングであれば見たままを真似すればいいので初対面でも可能ですが、ペーシングは相手がかなり話をして、それをしっかり確認してからでなければ使えません。
何度も会話をしている相手であれば話のリズムはよくわかっているはずです。
ペーシングを行うことで、相手は何となく気が合うと感じ始めます。潜在意識で類似性が誘発されているからです。
一方、相手のリズムと真逆になると、ラポールが形成されることはなく、違和感を覚えるようになります。
例えば、相手が静かに小さな声で話をしているのに聞き手がとにかく明るく元気に話をするような状態は、元気づける意図があったとしてもNGです。
誘導する場合は、ラポールが形成されてからにしましょう。
2-4.キャリブレーション
ラポールを形成するのは類似性を誘発する方法だけではありません。
普通の人だと気づかないような心情を察知することも、ラポールの形成には効果的です。表情や姿勢、呼吸、声のトーンなどをヒントにして相手の心理状態を認識するのです。これを「キャリブレーション」と呼びます。
例えば、本当はやりたくないけれど、周囲にお願いされ断りづらくて引き受けてしまった人がいるとします。
その人は、「頑張ります」と答えたものの内心は引き受けたことを後悔しています。
そんな心理状態を察知して助け船を出すような感じです。
キャリブレーションは相手のことを観察することですので、いつもよりも声のトーンが低かったり表情が冴えなかったりする点を察する必要があります。
誰も気づかない変化に気付き、心情を察してくれるわけですので信頼感が増すことになります。
とはいえ、一歩踏み込んで相手の心情を察知するキャリブレーションは、一緒にいる時間が長くないと難しいでしょう。
ですので、初対面の相手には使えないテクニックになります。
平常な状況だとどんな表情で、どんな声のトーンなのかを把握しておかなければならないからです。
また、キャリブレーションの難しい点は、相手の心の内に踏み込むことになるので、それを嫌がられる可能性もあるということです。
常にキャリブレーションをしていると、ラポールを形成するどころか嫌われて距離を置かれてしまいます。ですので、重要だと感じた場面でだけ行うことが大切です。
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まとめ
今回は相手との信頼関係を築くラポールの形成の仕方についてお伝えしてきましたが、一番のポイントは「相手への思いやりであり、共感する姿勢」です。それが相手と自分の間に橋を架け、距離を縮めてくれます。
ビジネスシーンでは、いかに顧客の心を掴み商品を購入してもらえるか、といった際のノウハウとしてラポールの形成方法が参考にされることがあります。
自分の思いを伝える「リーディング」という方法もありますが、これはあくまでもラポールが形成されてからになります。商品の内容を伝える以上に、まずは相手の心情に寄り添うことが大切なのです。
良好な人間関係を築いていくためにも、まずは相手の話に耳を傾け、相手を受け止めていきましょう。
そしてそれが相手にしっかり伝わるように工夫するのです。ラポールを形成するテクニックについては、注意点を配慮しながら実践するように心がけてください。
コミュニケーションに必須の「傾聴」については以下の記事で詳しく解説しています。「聴く力」を高めたい方はこちらもぜひご覧ください。