ビジネスの現場で部下やメンバーにコーチングを取り入れたいと考えている上司やマネージャーは多いのではないでしょうか?
実際に私たちのコーチングを受ける方のうち、2〜3割程度の方は「仕事でコーチングを使いたい」とおっしゃっています。
確かに、コーチングを用いたコミュニケーションを行うことでチームや部下が目標を達成するための大きな手助けになります。
しかし、コーチングはただ「質問」や「傾聴」をすればいい、というものではなく、コーチングは基本的な手順やスタンスを知らなければ部下の育成やチーム力の向上に役立てることができません。
今回は最近注目されているコーチングを、職場で使うためにはどのように進めていけばいいかについてお伝えしていきます。
この記事の目次
1.コーチングを進める前にまず確認したいこと
1-1.コーチングが機能する領域
最初に確認しておくべき点は、コーチングはあらゆる場面で効果のある万能な手法ではないということです。
例えば「重要度が高く、さらに緊急度も高い」といった領域においては、コーチングよりもティーチングが効果的です。
ビジネスにおいて重要度が高く、緊急度も高いという事案は起こりがちです。
- 顧客や取り引き先への期限や納期が決まっている
- 仕事が遅い部下への指導
- クレーム対応
こうしたものは緊急度が高いため、自己解決を待っている時間がないので、コーチングよりも直接指導するようなティーチング(教えること)が有効です。
コーチングが機能するのは、とにかくすぐ取りかからなければならないような緊急度の高い領域のものではなく、「重要だけど緊急ではない」という領域です。
例として、「部下のキャリアを明確にする」「リーダーシップを高める」「良好な人間関係を構築する」といったものも該当してきます。
こうしたことは日々の忙しさのために後回しにされ、まったく手をつけられていない可能性があります。しかし、中長期的に見て本人および組織に大きな影響をもたらすのがこの領域なのです。(もちろん、そもそも重要でない領域でコーチングを行うことは望ましくありません)
1-2.相手の目標を必ず明確にする
いきなりコーチングを始めても機能しません。
まずはコーチングを進める前に、コーチ役は相手の目標やについて必ず認識しておく必要があります。
そもそも「これから先、どうなっていきたいのか」という理想や目標があり、そこにたどり着くようサポートするのがコーチングです。
目標が明確化されており、現状をしっかり見つめることで、「何をしていくべきなのか」が見えてきます。こういった目標と現実のギャップを埋めていくのがコーチングの役割なのです。
また、仮に目標を持っていたとしても、その目標が本当に本人が望むものではく、本当の目指したい目標に気づいていない場合も考えられます。
こうした意味でも「目標を明確化」していく必要があるのです。
コーチングには傾聴や問いかけといったスキルがありますが、ただ部下の話を聞いていればいいというものでも、やみくもに問いかけていればいいものでもありません。
目標や目的をはっきりさせ、そこに向かうための手段であることを理解しておくべきです。
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2.コーチングの実際の進め方
2-1.対話する環境を確認する
実際にコーチングを進めていくわけですが、まずはコーチングを行う環境を整備しましょう
部下やメンバーにコーチングをする際はカフェなどの周りが騒がしく、他人の目が気になるような場所は避けましょう。また、他の社員が通ったりする場所の避けたほうがいいです。
コーチングをするのであれば、会議室などできる静かな環境であることが望ましく、また、本人の本音を引き出すためにプライバシーを守ることのできるよう配慮する必要があります。
また、いきなり呼び出すと相手に不安を与えてしまうので、事前に「これからコーチングを行う」ということを伝えておいた方が相手も安心できます。
また、コーチングには守秘義務があるので、その場で話したことは他の人には話さないといったことを伝えておくと相手も安心できるでしょう。
余計な不安を与えてしまうと対話に集中できないばかりではなく、本音で話すことも難しくなるので、こうした配慮は徹底してください。
本来、コーチングを受ける場合は、「自分を変えたい」「目標を達成できるようになりたい」といった積極的な姿勢で臨むことで効果が高まります。
ですからコーチングをこれから受けるんだという心構えをさせる点はまったく問題がありません。むしろそうすることで本気で対話しようという気持ちになれる可能性があります。
2-2.目標を達成するために必要な材料について
事前に目標を明確にしているはずなので、次はリソース(材料)について考えてもらいます。
リソースとは、その人の経験や知識、人脈(協力者)や資金、情報といった目標を達成するために活用できそうな材料として出てくるでしょう。
ここでポイントになるのは、部下が目標を達成に必要な材料を持っていることに気づいていない可能性もあるという点です。
こうした場合、「目標達成のためには何が必要なのか」といった質問だけでなく、「今の自分の持っている材料で使えるものはないのか」という「あるもの」にフォーカスした問いかけによって、新しい気づきが生れてきます。
必要な材料を整理することによって、本当にこれから先に必要となる変化や行動が見えてくるのです。
2-3.目標を達成するための行動について
目標に必要な材料を洗い出したら、次に「現状を変えるためにどのような行動が必要なのか」という点を考えていきます。
このとき、コーチングをする側が上司など経験がある人であっても、アドバイスするようなことはしません。
「そうするよりも、こうした方がいい」と伝えたくなる気持ちもわかりますが、あくまでも部下自身が主体的に考え、行動の計画を立てることが大切です。
もし現状、「知識が不足している」「必要なスキルが不足している」という現状に気がつけば、自然と「知識をつける」「スキルを身につける」という行動目標になるでしょう。
2-4.約束事を決める
必要なリソースや行動がわかったところで、実際に行動に移さない限り状況は変わりません。
よくある話ですが、「今日からこれをやります!」と、一時的に意欲が高まっただけで、数日経過したら元に戻ってしまってはコーチングをした意味がありません。
そのため、継続的に行動をしてもらうためには、決めた行動について深堀りをしていったり、定期的に状況を確認していくことが大切です。
具体的な内容のポイントとしては、
- いつから始めるのか
- いつまでに何をするのか
- どこでするのか
- 誰の協力を得るのか
といった点を突っ込んでいき、約束をしていくことです。
次回にコーチングを行う際に進捗を報告してもらうようにすると、より行動に移しやすくなります。
どのような取り組みをしてどういう結果になったか、ということについて確認することで、今後どうしていくべきなのか再考して行動計画を練り直すこともできます。
上司が取り組みについて承認する機会にもなり、部下はこういった承認によってより自信を持って能動的に活動しやすくなります。
約束を決めないと、ただの気づきで終わってしまい、ルーズな生活に戻ってしまいます。
ですので、一回のコーチングで完了することなく、振り返りやフォローのタイミングをしっかり決めながら中長期的に継続してコーチングを行っていくようにしていくとよいでしょう。
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3.コーチが持つべき3つの視点(PBPの視点)
コーチがクライアントを成長させるために持つべき3つの視点があります。
それは、
- Possession(持っている材料)
- Behavior(行動)
- Presence(考え方や価値観)
の3つで、これらを「PBPの視点」とも呼びます。
成果を出すコーチはこの3つの視点を大切に持ちながらクライアントに接し、コーチングを行っています。では、なぜこれらの視点が大切なのでしょうか?
を例に見ていきましょう。
Possession(ポゼッション)
まず、コーチはクライアントがどの程度知識やスキルを持っているのかを知る必要があります。
Aさんは、はじめてリーダーを任されたため、マネジメントスキルやリーダーシップスキルが十分でない可能性が考えられます。
チームのゴールの考え方やメンバーとの面談など、チームリーダーとして必要な知識・スキルがAさんに備わっているかを考えることがPossessionの視点です。
そして、今持っているものを知ることがBehavior(行動)につながっていくのです。
・今持っている知識やスキルで使えそうなものは何ですか?
このような対話により、Aさんに必要なスキルや知識を明確にしていきます。
Behavior(ビヘイビア)
先にも書きましたが、目標を達成するためには行動が不可欠です。
コーチはクライアントがどのような行動をするか、どれくらいの行動をしているのか、といった部分に注目し、コーチングを進めます。
・次回のセッションまでにどんなことをやりますか?
こうした対話により、Aさんの行動を促します。
Presence(プレゼンス)
やることが明確で、知識があったとしてもうまくいかないこともあります。
Aさんはこれまでとは違いチームのリーダーを任されています。そのため、例えばこれまでの経験則から同じような行動を取ってしまうことで、個人の成績はアップしてもチームとして良い成績を納めることができない可能性があります。
Aさんは「成績を上げるためには〇〇すべき」という考えや価値観を持っているかもしれません。プレゼンスは長年の経験によって身についたものなので、こうした価値観が根強く残っている可能性があり、すぐに変えられるものではありません。
コーチはクライアントの現在の考え方や価値観(プレゼンス)を把握し、目標を達成するためにはどのようなPresenceが適しているのかを知る必要があります。
・目標を達成するために変化が必要だとしたら、どのようなことがありますか?
以上のように、コーチは3つの視点を持ってクライアントに関わっていく必要があります。また、これら3つの要素はクライアントの中で関わっているため、どれか一つに意識が偏らないように注意しましょう。
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・まとめ
「答えは相手が持っている」、「状況を整理し、解決策を自分で考えさせる」ことがコーチングであり、そうすることによって、部下は自発的に考え、行動できるように成長していきます。
質問ばかり行って相手を混乱させたり、ただ話を聞くだけで何の気づきも生れないような対話にならないよう、コーチングに大切な視点を持ち、順序良く進めていってください。そうすれば部下の中に眠っている能力を引き出すことができるのです。