
企業において、順調に業績を伸ばしていくためには、新しい人材がどんどん育っていくような環境が必要になってきます。
しかし、ただ仕事の経験を積ませるだけでは、自発的で創造的な人材は育成できません。
そこで問われるのが育成する側の資質です。
また、育成するだけでなく、社内を活気づけ、よりよく改善していくため、「コーチング」が注目されるようになりました。
だからこそ、管理職にコーチングを学ばせている企業が増えてきているのです。
しかし、コーチングをただ採り入れるだけでは改善されないケースも多くあるので、注意が必要になります。
企業にコーチング研修や管理職向けコーチングを採り入れようと考えている担当者は事前によく考えるようにしてください。
今回は、企業向けのコーチングについて、その効果と注意点についてお伝えしていきます。
この記事の目次
1.企業向けコーチングの内容
1-1. 管理職向け、リーダー向け
企業向けコーチングは、コーチやスクールによって内容や形態が異なりますが、経営者などの上級管理職に向けたものと、中級管理職向けのものに分かれています。
上級管理職向けは、エグゼクティブコースといった名称が付けられており、完全個別形式で期間も長めに設定されています。
月に2回ほどのコーチングを、半年や1年といった期間継続して受けていくものです。
中級管理職向けのコーチングは、集合研修といった形式が多いでしょう。
1回1時間ほどのコーチング研修を10回程度受けることになります。
どちらも内省を促し、問題を解決する新しい視点に気づいていくことが目標になります。
また、部下にコーチングを施すために、どのように質問をしていくのか、どのように関わっていくべきなのかといったことを学んでいきます。
1-2.研修式と1on1コーチング
基本的にコーチングは、コーチとクライアントの対話形式で、クライアントの可能性を引き出すために、相手の状態に見合った質問をしていく必要があります。
ですので1on1コーチングという形式が一般的です。
上級管理職向けのコースの場合はそれが可能ですが、これでは1人のクライアントに対して1人のコーチが必要となり、管理職の社員が多くいる企業では効率的ではありません。
そこで中級管理職向けのコースは集団による研修式になることが多いです。
研修式のものでは、コーチングとはどのようなものなのか、コーチングはどのような手法で行い、どのような効果があるのかを学びます。
研修の中では質問を受け付けるといった時間もあり、コーチングへの理解を深めていくことができます。
研修で学んだことを職場で実践してみることで、新しい疑問や気づきなども生まれてきますので、ある程度の期間をおいて次の研修に参加し、現場にさらに反映できるコーチングを身に付けることができるのです。
2.コーチング研修を受けることで活用できるシーン
2-1.人材育成
コーチングを身に付けることで向上するのは「コミュニケーションスキル」になります。
営業をするにしても、社内のチームワークを高めていくにしても、コミュニケーションはとても重要です。
コミュニケーションスキルを向上させるというと、話術が巧みになることをイメージする人が多いですが、コミュニケーションの柱は「相手の話をいかに聴くか」という点です。
「聞く」ではなく「聴く」ことであることに注目してください。
ただ耳を傾けて聞くのではありません。
うなずきながら、質問を交えながら、相手に「自己対話」をする機会を作り出すように聴くのです。
話をしている側(部下など)は自分を受け止めてもらえているという安心感を抱くとともに、自分にとっての問題は何なのか、それを解決するにはどうしていくべきなのかに気づき、成長していきます。
また、傾聴することは、他人に指導され何かを学ぶのではなく、自分自身で問題を解決していくことに繋がるため、自発性を高めることにもつながります。
これが本来のコーチングであり、コーチングがもたらす効果になります。
コーチングを的確に活用することによって、部下のやる気を高め、信頼関係を築き、自主的に行動できる人材に育成することができるのです。
これにより、周囲に良い影響力を与え、目標達成のために周囲を巻き込むことのできる新しいリーダーを育成することにもなります。
2-2.組織開発
チームリーダーがコーチングを活用することで、積極的な社員を育成していくことになり、社内の人と人との関係性が活性化されるようになります。
まさに職場が活気づく状態です。
指示をしなければ動けない、または指示をしても動きが緩慢な社員ばかりだと、企業の生産性は向上しません。業績も改善されないのです。
働いている人の心ややる気を変えることができれば、組織も変わります。
コーチングには「組織開発」というメリットもあるのです。
頭ごなしに部下に命令する、強制する、感情的に怒るといった上司がいれば、組織はどんどんネガティブな方向に進んでしまいます。
管理職やリーダーがコーチングのスキルを身に付けることで、組織をポジティブな方向に進めていくことができるようになります。
3.企業向けコーチングは、どういう人が受けるべきか
コーチの語源は「Coach」(馬車)と言われているように、相手を「こうなりたい」という思う目的地まで送り届けるのが最大の役目です。
この場合、コーチは目的地を決めません。目的地を決めるのはクライアントになります。
仮に目的地がない状態でも必死に前に進もうとしているのであれば、コーチは目的地を探すサポートをすることも可能です。
しかし、目的地を定めるつもりがない相手に対しては、コーチングの効果は弱くなってしまいます。
つまり「目標を達成したい」、「自分を成長させたい」、「組織に貢献したい」という意欲のある人に対してこそ、企業向けコーチングの効果はあるのです。
企業側としては、社員全員に研修を受けさせて組織開発をしたいという気持ちもあるでしょうが、意欲のない状態の社員に研修を受けさせても効果はありません。
むしろ、「あの上司は今、コーチングをしようとしている」という勘ぐりに繋がり、逆効果になってしまいます。
まずは人数を限定し、期待できるメンバーからコーチングの研修を受けさせていくのが得策です。
4.企業向けコーチングにおける注意点
ここではコーチングを機能させるためにとても大切な注意点についてお伝えします。
4-1.1回のコーチング研修を受けてもできるようにはならない
コーチングは1日の研修などで教えられることも多いですが、実際には知識のインプットだけでコーチングを習得するのは困難です。
そのため単発で、1回数時間の研修を受けさせても、成果を出せるコーチングを身に付けることはできません。
人間を相手にするものですから、付け焼刃の知識では対応できないのです。
研修を受けて学んだことを実践してみる。そしてどんな効果があったのか、どうして効果がなかったのかを振り返ることも必要です。そこで新しい気づきが生まれます。
こうして、ひとつ上のステージで研修を受けることができるようになります。
コーチングを身に付けていくためには、「インプット→アウトプット→フィードバック→インプット……」このサイクルを繰り返していかなければなりません。
実際、私たち含めコーチは一人前になるには数百人ものコーチングセッションの経験を重ねます。
正直、数時間研修を受けてできるようになるのならそんなに楽なことはありません。
ですので、コーチングを習得するのであれば、ある程度の期間、継続して研修を受ける必要があるでしょう。
簡単に得ることのできた知識はあっという間に忘れてしまいます。
時間をかけ、コーチングのスキルを定着させられるような研修を受けるべきです。
また、中途半端な状態でコーチングを習得すると、経営陣からの期待だけが先行して、部下に対して良い影響を与えることができず、板挟みになって追い詰められてしまう管理職も出てきます。
結果として組織がネガティブな方向に進んでしまうので注意が必要です。
4-2.ラポールを築けてこそコーチングの成果が出る
コーチングで成果を出すためには「信頼関係」が前提となります。
この信頼関係のことを「ラポール」(架け橋)と呼びます。
ラポールができている状態でコーチングをするからこそ、「この人は自分の話に興味を持って聴いてくれる」という実感が生まれ、初めて部下から本音が出てきます。
よくあるのが、コーチング研修を受けた上司が急に部下に対して質問や傾聴を行うというもの。
しかし、これまで部下を叱ってばかりや部下の話を聞かなかった上司が、急にコーチングで学んだ質問や傾聴をしても困惑してしまいます。
また、ラポールが築かれていない状態で、コーチングによる質問を繰り返しても、表面上問題ない通り一辺倒の答えしか返ってきません。
本音で話をしていない以上、自分の中の本当の問題に気づくこともなく、自分で改善することはできません。
この状態に上司側が苛立ちを覚えるようになると、結局は一方的なアドバイスや、注意、指摘といったことになってしまい、自主性を育むことができないだけでなく、反発心を育てることにも繋がってしまいます。
コーチングを実践する場合は、時間がかかることを理解し、まずはじっくりと部下と向き合ってラポールを築くことから始めていくべきなのです。
4-3.GROWモデルを身に付けるだけでは行き詰まる
コーチングの基本スキルに「GROWモデル」というものがあり、多くのコーチング研修でも取り入れられています。
GROWモデルとは、以下の内容を差し、これらをベースにコーチングが行われることが多いです。
R(Reality)…実際の現状はどうなのかをみつめること
または「Resource」、目標を達成するために利用できる人や物といった資源は何なのかといった視点
O(Option)…目標を達成するために選択肢を創造すること
W(Will)…目標を達成したいという意思や具体的に行動として何をするのかといった約束
これらを部下に問いかけていくことで、目標とは与えられてやらされるものではなく、積極的に行動し、達成するものという認識に変えていくことができます。
GROWモデルはコーチングの基本なので、どのような研修を受けてもきっと教えられることでしょう。
しかし、常に同じ姿勢、同じ質問の仕方、同じ口調で通用するわけではありません。
部下のタイプや状態によって、話の聴き方や質問の仕方を工夫することが大切になります。
例えば、どのような人でも「自分にはできない」「私は悪くない」といった成果や行動を妨げる障害や思い込みがあります。
また、数十年生きていくなかで育まれた価値基準やネガティブな思考といった心理的な課題が多く見受けられるのが現実です。
こうしたその人の内面的な部分にアプローチするには、表面的なスキルであるGROWモデルを使うだけでは不可能なのです。
部下の事情も知らずしてただGROWモデルをひたすら行うことは関係を悪化させるだけだということを知っておくべきです。
GROWモデルを知っていればコーチングができるというものではありません。
本質的に相手の可能性を引き出すコーチングスキルのコツを、正しい研修や直接コーチングを受けて身に付ける必要があります。
まとめ
企業向けのコーチングを受けることが、人材育成や組織開発にとってとても有効です。
しかし、コーチングという言葉だけが先行し、その内容を企業が理解しないまま導入しても効果が出ないばかりか、不信感に繋がる危険性もあります。
コーチングで成果を出すためには、企業がしっかりとコーチングとはどのようなもので、習得するのにどれだけの期間がかかるのか、効果が出るのにどのくらいの時間がかかるのかを理解し、じっくりと管理職に学ばせる必要があるでしょう。
それができてこそ、社員ひとりひとりが能動的に働ける、本当に活気づいた職場に変えることができるのです。