
教育現場だけでなく、一般企業においても幹部候補の育成や若手職員の研修などで「コーチング」や「ティーチング」といった育成方法が用いられています。
注意しなければならないことは、人を育成する際にはタスクの内容や対象の知識・経験によって、コーチングが適切かティーチングが適切かが異なるということです。
コーチングとティーチングをしっかり使い分けるためには、それぞれのメリットとデメリットを把握しておく必要があります。
今回はコーチングとティーチングの違いについてお伝えしていきます。必要に応じて使い分けるようにしましょう。
この記事の目次
1.コーチングとティーチングの違い
1-1.コーチングとは傾聴と質問により目標達成を支援すること
もともとコーチ(coach)とは、「馬車」を意味しています。
馬車は、「乗る人をその目的地まで無事に送り届ける」のが役目です。
そのためコーチングでのコーチの役割は、クライアントが目標を達成できるようにサポートしていくことになります。
コーチは「指導者」であり、「上達するようにアドバイスする立場」だと思われがちですが、実際のところコーチングでのコーチは、一切アドバイスをしません。
「何を目標にすべきか」「どこを改善すべきか」という点をコーチが決めることはしないのです。
仮に目標が決まっていない人に対してコーチングを行う場合、まずは「どうなりたいのか」を考えてもらうことから始まります。
そして現在の自分を見つめながら、目標を達成するために「何をする必要があるのか」も考えてもらうのです。
クライアントの問題点や本音を引き出すために、コーチは「傾聴」と「質問」を駆使します。
傾聴は、クライアントの話をしっかりと受け止め、信頼関係を構築するために行われます。
こうしてクライアントは安心して素の自分をさらけ出すことができます。
質問をされることで頭の中で「自己対話」が行われます。
自己対話が行われることで「気づき」が得られ、問題を解決するための必要な思考や行動が生まれるのです。
例えクライアントが、なかなか解決策が見つからない状態であっても、コーチは焦らずにじっくりと質問を繰り返し、どうすれば今の自分を変えることができるのか考える時間をとります。
こうすることでクライアントは「自分の力」で、「自分で立てた目標を達成する」ということができるようになるのです。
1-2.ティーチングとは
一方でティーチングは、「学校の授業」をイメージしていただけるとわかりやすいです。
教える側と教わる側に分かれ、教える側は徹底的に「どうすればできるのか」というやり方を指導します。
つまり、一方通行のコミュニケーションであるのがティーチングです。
教わる側は、初めての知識ですから理解しようと必死に話を聞きます。
理解できないことや、疑問点については教える側に質問することもありますが、教わる側は基本的にひたすら話を聞き続けることになります。
教える側のポイントは、「いかにわかりやすく伝えるのか」「いかに興味を持ってもらえるように伝えるのか」ということです。
教わる側がイメージしやすくなるような例え話を交えながら、少しずつ理解度を高めていき、知識を定着させるのが目的です。
こうして教わる側は、新しい知識やスキルを身に付けることができるようになるのです。これがティーチングです。
2.コーチングとティーチングのそれぞれのメリットとデメリット
2-1.コーチングのメリット
コーチングのメリットは以下のようなものがあげられます。
- 自発的に行動する力が身につく
- 個人の能力や可能性を引き出すことができる
- コミュニケーション力の向上
コーチングの一番のメリットは「問題を自発的に解決しようという力が身に付く」ということです。ティーチングでは正解をわかりやすく伝える一方、コーチングでは答えを提示することはありません。
コーチは的確な質問を繰り返していくことで、クライアントは自らの頭で問題を解決するまでのプロセスを身に付けることができます。
そして、コーチングは「仕事の方法がわからない」「緊急の案件に対応したい」といった目先の問題を解決することよりも、「自己を成長させたい」「リーダーシップを高めたい」というようなより個人の能力や可能性を引き出すことを優先しているのです。
また、コミュニケーション能力を高めることができるというものもあります。もちろんコーチングでコミュニケーションについて教える訳ではありません。
部下の育成やリーダーとして活躍したいと考えている人は、コーチングを受ける中で、「どのように相手の話を聴くと信頼関係を築くことができるのか」「どのような質問をすると相手に自分自身の問題に向き合わせることができるのか」といったことをコーチの質問に答えていくことで明確になります。
これは相手の立場に立つことで見えてくる視点であり、コーチングのスキルとして活用されています。
このようにコーチングでは、自発的に活動できる将来のリーダーを育てていくこともできるというメリットがあるのです。
2-2.コーチングのデメリット
デメリットは以下のようなものがあります。
- 大勢を相手にすることができない
- 効果が出るまでに時間がかかる
まずコーチングは、コーチがクライアントの話を傾聴し質問していきますので、基本は1対1で行います。そのため大勢を相手に行うことには適していません。
それぞれがまったく異なる問題を抱えているので、効果が薄くなってしまうのです。
また、本人が自分自身の中の問題に気が付き、その解決策を見つけるまで辛抱強く対応する必要がありますので、時間がかかります。
一般的にコーチングで成果を出すためには半年から1年間が目安とされています。
そのため、仕事上における緊急を要するケースに対応することはコーチングでは難しくなります。
2-3.ティーチングのメリット
ティーチングのメリットは次のようなものです。
- 大勢を相手にすることができる
- 緊急性が高い内容に対応できる
コーチングとは異なり、ティーチングは教わる側が複数でもまったく問題がありません。
10人相手でも、100人相手でも同じものを提供することができます。「大勢」を相手に新しい知識やスキルを教えることができる点がティーチングの大きなメリットです。
研修などはまさにティーチングの代表といえるでしょう。
つまり実際に教わる側の目の前にいる必要もないことになります。
動画を使っても同じような効果を期待できるのです。そうなると対象人数が1万人でも、10万人でもティーチングは可能です。
例えば、社内規則や社会人としてのモラルといった基本的な内容を新入社員に伝えたい時に、ひとりひとり面談をして話をしていたのでは時間がかかり効率が悪いですし、他と違う内容を伝えてしまう可能性もあります。
また、緊急性の高い案件に対し、経験値の低い社員がどう対応すればいいのか、といった問題はコーチングよりもティーチングが適しています。
こうしたケースの場合、先輩職員などがまずどうすればいいのかということを最初から丁寧に教える必要があるからです。
2-4.ティーチングのデメリット
それでは、ティーチングのデメリットとはなんでしょうか?
- 相手の個性を活かすことが難しい
- 依存心が高まる可能性がある
- コミュニケーション力の向上は難しい
ティーチングは教える側が一方的に伝えるだけになる傾向が強いのでは「教わる側の個性を活かす」ことが難しいというデメリットがあります。
さらにコミュニケーションが一方通行なために、教わる側は受け身になりがちです。
「わからないことは教えてもらえる」「困ったら教えてもらえばいい」という考え方が定着してしまうと、依存性が強くなり、自分で問題を解決しようとする自立心の育成を阻害してしまいます。
基本的な知識を身に付けるというレベルであれば問題ないのですが、新しい課題に直面した時に乗り越えようとする力までは育成することが困難となります。
また、教わることばかりなので、コミュニケーション力を高めることは難しいといえます。
もちろんコミュニケーションの方法(テクニック)を教える研修などはあるでしょうが、コミュニケーションの基本は相手との信頼関係の構築であり、ティーチングだけでは身につけることは困難でしょう。
ティーチングだけでは突出した人材の育成はできません。受けての個性や価値観を引き出し、自発性を見出すためにはコーチングの要素が必要になってくるのです。
3.コーチング、ティーチングそれぞれどんな人に向いているのか
3-1.コーチングが向いている人
ある程度経験を積んでいる人で「伸び悩んでいる人」や、「自分の殻を破ってさらに成長したいという人」にはコーチングが適しているでしょう。
コーチングであれば、伸び悩んでいる理由や成長のために変えなければならないことに気付くことができます。本人の中に眠っている可能性を引き出すことができるのです。
例えば、営業に携わってきて順調に経験を積んできたものの、「今まで以上の売上を達成したいがどうすればいいのか」「もっと自分の個性を活かして営業が上手くなりたいがどうすればいいのか」と試行錯誤するものの解決策が見つからずもがいていたり、「この役職に就いて、もっと組織力を向上させたい」という意欲がある人にこそコーチングは最適です。
コーチングで引き出される点としては他にも次のようなものがあります。
- 自信を持って周囲の人に接することができるようになる。
- 高いモチベーションを維持して、目標に向って努力を継続できるようになる。
- コミュニケーションスキルが向上し、周囲にも良い影響を与えることができる。
- リーダーシップが発揮できるようになる。
ティーチングではなかなかここまで自分を高めることは難しいでしょう。ティーチングの限界を超えられるのがコーチングです。
目標を見失っていても、「今の自分を変えたい」という強い思いがあるのであれば、コーチングによって目標を見つけることができます。
逆に「今の自分を変えたくない」という気持ちがある人にはコーチングは不向きです。
3-2.ティーチングが向いている人
知識や経験がまったくない状態であれば、コーチングだと解決策も見つけられず混乱するだけなので、ティーチングが適しています。
例えば、商品の知識がなく、営業の経験がない人にコーチングを行っても、スキルは向上しないでしょう。
自分の中をいくら探しても商品の知識も営業スキルも見つからないからです。
ティーチングで学ぶべき点は以下のようなものがあります。
- 商品はどんな意図で作られたのか。
- 商品の特徴はどのようなものなのか。
- 商品にはどんなベネフィットがあるのか。
- 取引先とのやりとりのマナー。
- 顧客に対する会社の考え方。
営業業であれば、このような基本的な内容を学ぶべき人には、ティーチングが向いています。
主に新入社員が対象になってくるでしょう。
まとめ
コーチングとティーチングのメリットとデメリットをまとめると以下のようになります。
メリット | デメリット | |
コーチング |
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ティーチング |
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基本的な知識や経験を積むまではティーチングが主体になるでしょう。
しかし、問題は基本的な知識やスキルが身に付いてからです。ここから先は自分を磨いていくという心がけや行動が必要です。
マンネリ化した状態を打破し、「目標を達成できる実行力」「周囲を引っ張ることのできるリーダーシップ」「新しい課題にも積極的に取り組み、乗り越えていく主体性」はコーチングでこそ高めていくことができます。
ティーチングとコーチングは、状況やタスクの内容によって使い分けることで、効果的な成長を促すことができるのです。